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リモート通訳(遠隔通訳)の手配の仕方

通訳者の仕事を変容させているRSI(リモート同時通訳)の技術。
対面による通訳が困難な時でも自宅からリモート通訳(遠隔通訳)サービスが利用可能です。

今年(2020年)のコロナ渦による在宅勤務の波は、同時通訳者にも押し寄せてきました。

数年前から小波のように訪れていた遠隔同時通訳(Remote Simultaneous Interpreting)テクノロジーの波。高いと言われる9番目の波のように通訳の仕事の在り方を変容させつつあります。

Contents

|リモート通訳(遠隔通訳)って何?

RSI(Remote Simultaneous Interpreting)のテクノロジーが開発される数年前までは、リモート通訳(遠隔通訳)というと、逐次通訳しかありませんでした。

リモート通訳(Remote Interpreting、Remote Interpretation)にも、逐次通訳同時通訳の二つのモードがあります。逐次通訳の遠隔通訳には電話通訳とビデオ通訳(Video Link)がありました。

逐次通訳の場合は、発言者が話したあと、つづいて通訳が入るもので、オリジナルの発言の2倍程度の時間を必要とします。

他方、同時通訳の場合は、発言者が話すのとほぼ同時に訳し始め、話終わると同時に訳し終えます。

多く見られるパターンとしては、

逐次通訳一人体制で、同時通訳二人体制

です。

いま通訳市場で話題になっている遠隔通訳技術とは、遠隔による同時通訳、つまりクラウド上の同時通訳のプラットフォームを利用した同時通訳サービスのことです。

逐次通訳は一人なので料金が同通の半分

同時通訳は二人なので時間が逐次の半分

RSIの技術が開発され市場に出始めたのは2017年後半〜2018年頃だったかと思います。

私がはじめてクラウドベースのRSIプラットフォームを使った同時通訳案件を請け負ったのが、たしか2017年後半だったと思うので、かなり初期に使っていたことになりベータ版に近い状態だったように思います。

現在はバージョンアップを重ね、当初に比べて機能的にも成熟してきたでしょうが、リモート通訳の場合は対面の通訳、通訳者が同席しないミーティングとはかなり勝手が違います。

そのため、通訳者が同席するリモートのミーティング特有のポイントに気をつけて手配すると、トラブルのリスクを減らし、成功しやすくなります。

✔︎ ネット接続の安定とリスク対策のために・・・

トラブル、リスクというと、ネット接続の問題が上げられるかと思います。

私の場合、仕事場は母屋から離れたところにあるので、商業用の光回線を家とは別で引いています。RSI用の専用スペース(アイキャッチ画像参照)を設け、RSI用のデスクトップをLANケーブルで有線接続しています。

現在ヨークシャーという田舎に住んでいますが、ロンドンに比べて遥かにネット環境は良く、ネットスピードなどデータは以下の通りです。意外ですか?

*ネットスピード結果画像*

その昔、メディア専攻のバックグラウンドがあるせいか、テレビや通信関係のお仕事をたくさんいただいたのですが、その中でアナログ停波(地デジ移行)のイギリスの調査の通訳をさせていただいたことがあります。

そのときにも課題として出てきたのが、全国的に知る人ぞ知るロンドン問題です。ロンドンは大都市ですが、インフラが古い。インフラが古いのに、人口が増え続けて、システムが追いつかない上に、システムの移行作業が難しいのです。

日本のアナログ停波はどちらかというと一気に実施された感がありますが、イギリスは段階的でした。人口の密集しているロンドンではなく、スコットランドなど一見辺境の地域から新システムは導入される傾向があります。

というわけで、ブロードバンドを二本別々で引いていることに加えて、どうしてもやむを得ない場合はテザリング用にSIMカードのバックアップ回線も二つあります。

他の同業者の話を聞く限り、個人でここまで整備している人は多くはありません。ネットを使った技術ソリューションにトラブルは付き物ですが、万が一何かあった場合でも、上記のようなネットのバックアップ回線があります

|遠隔通訳(RSI)のつかい方

Zoomなど遠隔ミーティングプラットフォームによる利用が可能です。無料アカウントではなくZoomのBusiness以上のアカウント契約者であれば、ミーティングの機能のひとつとして通訳者をアサインすることができます。Zoomの通訳機能と設定方法の詳細は以下のリンクからご確認いただけます。Zoom: Language Interpretation in Meetings and Webinars (英語)

👉 通訳者の手配は別です。

Zoomを通して通訳サービスを利用する場合、一人から複数の通訳者を同時にアサインすることができます。逐次通訳の場合は丸一日など長時間でない場合は一人で対応します。しかし、同時通訳の場合は、ミーティングの全工程が30分以内など極端に短い場合を除き二名必要になります。

Zoom以外のミーティングプラットフォーム(WebEx、GoToMeeting など)の場合、通訳をアサインするツールが搭載されていません(2020年6月下旬現在)。

そのため、やや複雑な設定が必要となります。その場合は御社のネットアプリケーションおよび音声技術に詳しいテクニシャンにご相談されることをお勧めします。

クラウドベースの同時通訳用プラットフォームを検討される場合は、Interprefy のほか、いくつかありますが、いずれもプラットフォームの手配と通訳者の手配の両方が必要になります。Interprefy の場合は、常にここのテクニシャンが会議の間中、プラットフォーム上で開催者・会場・通訳者の間に入ってアシストしています。

|通訳者の手配の方法

大型の国際会議など多言語対応であれば通訳エージェントを介した手配をお勧めしますが、日本語と英語のみなど多言語でない場合には直接お申し付けいただくのがコスト面がリーズナブルで、連絡が取りやすく効率的です。

通訳あっせん会社(通訳エージェント)を通さなくても、シンプルに手配が可能です。空き状態によりますので、まずはスケジュール確認をメールでお問い合わせください。

個人に直接依頼した場合に心配なのは「予定していた通訳者に何かあった場合に代わりがいないこと」ではないか、と思います。疾病などで万が一そのようなことがあった場合には、同等(以上)のスキル/経験がある信頼できる同業者を手配・紹介させていただきます。

お問い合わせいただく際に、以下の情報もあわせてお知らせいただけますと、その後の連携がスムーズです。

ミーティングの日時(仮でもOK=目安になります)
タイムゾーン
会社名・ご担当者名・連絡先
▪ 会議の分野(例:IT、エネルギー)
何時間くらいの予定か(予定開始時刻と終了時刻)
参加人数(だいたいでOK)
必要な言語(日・英など)

逐次通訳の場合は一名、同時通訳で二名以上必要な場合でもパートナーも含めて手配いたします。(頻繁にチームメイトとして組んでいるブースパートナーがおります。)

|リモート通訳の通訳料金

通訳料金は、対面の場合と同じく全日半日の二段階というのが一般的です。

「ミーティングがたとえ1時間でも半日料金⁉️」

と思われるかも知れませんが、通訳の仕事は当日だけが仕事ではなく、前準備が重要な仕事です。1時間のミーティングのために何時間、あるいは何日もかかることも決して珍しくないので、前準備を含めての料金なのです。

料金詳細ページはこちら

遠隔・対面の別にかかわらず、通訳料金にはもともと移動費は入っていないので、残念ながら移動がなくなったからといってその分安くなるわけではありません。

通訳者本人の負担(workload)という意味では、対面なら聞こえなかったり発言が速過ぎればその場で発言者に直談判することもできますし、いよいよ免れないとなれば通訳ブースの窓ガラスを叩いて知らせることもできます。

しかし、リモートとなると別空間で通訳者の姿が見えない状況で、訳出をしながら、訳出方向が突然変わることもあり、その場合は慌ててアウトプットとインプットの両方の言語を切り替えるといった操作が必要になります。

存在を忘れられているとしか思えないような進行になることだってあります…💦

言語設定だけではありません。上に述べたような「裏方」の人たちや通訳パートナーとコミュニケーションをチャットウィンドウで取ります。つまり、コンピュータ操作をしながらの通訳になるので、やることが増えます。

それだけではありません。音質が悪くても自分のコントロールではどうにもならないので、余計にストレス、そしてプレッシャーがかかります。このようにRSIの際の認知負荷(Cognitive Load)は、通訳ブースや対面の通訳よりも大きくなるのです。

|RSIはこのポイントを押さえるとうまくいく

✔︎ 音質の確保

通訳を同席させるミーティングの場合、特に同時通訳の場合は各スピーカー/発言者の声が通訳者にとってクリアに聞こえるかどうかが重要なポイントになります。「通訳者にとってクリア」という点ですが、通訳者は聞きながら話す(声を発する)必要があるので、純粋に「聞いているだけ」の人よりもクリアに発言が聞こえるかどうか、これが第一のポイントです。

|ノートパソコン内蔵マイクは鬼門・・・

遠隔のミーティングでは、ノートパソコン内蔵のマイクや会議室で使われているスピーカーフォンをダイヤルインで使用することがあるかと思います。

ノートパソコンの内蔵マイクをスピーカーが使用する場合、通訳者は聞きたい音以外の音も一緒に流れてくる為、音質が適しているとは言えず通訳しづらいのです。

マイクには、人の声よりも拾いやすい音があります。

その場にいれば、衣ずれやペンを触る音は人の耳にはほとんど聞こえないかも知れません。そんな音でも、機械であるマイクは人間の耳とは感じ方が違うため、発言よりもノイズのほうを大きく拾ってしまうことが珍しくありません。

つまり、発言もノイズも同じひとつのマイクを通して集音している場合、通訳者が必要とする発言者の声(音)だけではなくさまざまなノイズが入ってきて作業の邪魔になってしまうのです。

もちろんコンピューター内部のノイズもそのひとつ。

同時通訳に必要な脳への負担を増やすことになり、脳の疲労を早めてしまいパフォーマンスに響いてしまいかねない・・・。というわけで、マイクはコンピュータ内蔵マイクではなく外付けマイク全方向性は避け(❌)、単一指向性(⭕️)のマイクを発言者ごと至近距離でご利用されることをおすすめします。

✔︎ 視認性の確保

次に、Visility(視認性・可視性)です。通訳というと、声(音)さえ聞こえていれば訳せると思われがちですが・・・。

とあるRSI案件で、海外で大きな成功を収めている日本人ミュージシャンが特別ゲストとして登場しました。

RSIのプラットフォームには、搭載機能としては画面が映し出されるようになってはいるのですが(宝の持ち腐れ?)そのイベントでは会場側にカメラがつながれていなかったようで、そのことは当日蓋を開けるまでわかりませんでした。

通訳者は音声のみで、会場の様子はおろか、発言者の顔も何も見えませんでした。しかし、そのイベントでは会場のなかで新しい趣向を凝らした和装によるファッションショーが催されていたようで、それに合わせてゲストスピーカーがその様子をコメントするではありませんか・・・!

どんな着物なのかわからない。キモノとは言うものの、従来の着物に近いのか、かけ離れているのか・・・。会場の様子が見えませんから、複数の着物が陳列されているのか、モデルがひとりひとり「新しいスタイルの着物」を着てキャットウォークに出てきたのかすら、分かりません。

|通訳者は耳だけでなく目でも聴いている!!

「この着物は・・・」とか「この部分は〇〇ですね」と発言されても、会場が見えず状況が把握できないので、なかなか思うように通訳できないのです。

英語に限りませんが、日本語と一語一語等価で置き換えられるわけではなく意味を咀嚼して対象言語で表現し直すので、参加者や発言者と同じものが見える状態にすることが大切です。

視認性の点では、

1. 発言者の顔および会場の様子が見えること
2. プレゼン資料(スライド「スクリーンの共有」)

この二つが、通訳者のコンピュータ画面上「よく見える」ことがとても大切です。

|RSI独特のかくれた事実

国際会議の会場常設の通訳ブース、簡易ブースはどちらも通訳コーンソールを音響テクニシャンが設置・設定し、常にスタンバイしています。そして、二人ないし三人体制で同時通訳を行うので交代も目配せなどで合図してスムーズに行えますし、二つ(三つ)あるうちのコンソールのどれかが突然不具合を起こしても協力しあうことができます。

ところが、リモートつまり自宅から通訳サービスをするとなると、テクニシャンも通訳パートナーも同じ空間・部屋にはいません。いるのは自分だけ、通訳者本人のみ。独りきりです。

そのため、ブラウザがフリーズしたり、インターネットの接続が不安定になったりしたときに、通訳をしながら、あるいはもうすぐ回ってくる自分の番を気にしながらブラウザのリフレッシュをかけて、それでダメならコンピュータの再起動、ブラウザを立ち上げ、プラットフォームに入り直し、言語選択・設定、音声とビデオを設定し直して・・・という作業が追加されることになります。

トラブルさえなければ単純かというと、そんなことはありません(笑)。プラットフォームのテクニシャンやミーティングのモデレーターに、通訳しながらチャットウィンドウで報告・応答をしなければなりません。それでいてユーザーの耳にキーボードを叩く音が入らないような配慮も必要なのです。

また、二人体制の時には交代がありますから、通訳者同士のコミュニケーションも通訳をしながらそろそろ交代・・・と姿が見えませんから、交代のボタンをクリックするという画面操作やチャット入力があります。

交代する時のボタンですが、会場備え付けの通訳ブースであればボタンひとつ押せばいいところを(正確には片方を切ってもう片方をつけるので二つのボタンの連携が必要)コンピュータマウスを持って→ボタンにカーソルを合わせて→クリックし→相手が気付いて訳し出したことを確認して初めて自分の番が終わります。

|事前に準備するもの

ミーティングで使用されるスライド類(スピーカー全員分)、アジェンダをできる限り時間的な余裕を持って(遅くとも3日前までに)ご共有ください。

必要であれば、事前のブリーフィングやテクニカルリハーサルをしていただけると全ての関係者が事前に懸案事項を解決できるので万全かと思います。

資料の共有にあたり、通訳者の守秘義務は大前提となりますが、NDAを締結してからご共有いただくのが良いと思いますので、NDAをご用意・送付ください。

もう一点、最後に通訳者の立場から言わせていただけるなら・・・

なんとなくご理解・共感していただけたと思うのですが、ただでさえ手も足も縛られているような感覚すら覚えるリモート通訳。

当日始まってみたら原稿を足早に読み上げるスピーカーばかりだったなんていったら、さらに苦しい。ましてや、この展開は珍しくないのです。

同じ「話す」でも、原稿が読み上げられるスピーチを通訳するのと、原稿がないスピーチを通訳するのはまるで違います。発言者・講演者が原稿を用意されるのであれば、たとえ下書きでも結構です。ギリギリだったとしても、ないよりはあった方が絶対に良いので事前に原稿をご共有ください。

新型コロナによる移動規制が緩和され、そして撤廃されたら。ミーティングについてはコロナ前のように対面がデフォルトではなくなると考えています。

ミーティングの開催が決まるたびに「このミーティングはどうしても対面で行うべきか?」「リモートでも問題ないのでは?」と毎回問われる時代、それがwithコロナ、postコロナ時代ではないかと考えています。そういったニューノーマルのなか、リモート通訳で少しでもお役に立てればと思っています。

ビジネス全般の通訳に対応できます。あえて得意分野ということでは、
・IT
・エネルギー(再生エネルギー・原子力)
・メディア(テレビ・ラジオ・ソーシャルメディア・写真・映画)
・マーケティング
・マーケットリサーチ(グルイン・デプスインタビューなど)です。

リモート通訳のお問い合わせ、ご相談はお気軽に hiramatsu@rie.london まで!
ギリギリ前日でも空き状況と分野次第ではお受けすることが可能です。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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