こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。
通訳はいつのタイミングで発注すればいいか?
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通訳の発注はいつがタイミングか?
通訳手配のタイミングはいつに設定されているか。
国際会議のイベントコーディネーション。
そのロードマップ(行程表)の、どの時点で通訳の発注を想定していますか?
イベントマネージメントの行程表には、事細かにさまざまなことがフェーズに分けて予定されており、実にたくさんのことを手配するよう記載されています。
このなかで通訳の手配はどこに計画されているのか、イベント当日の何週間前になったら発注されるのでしょうか?
イベント管理のフェーズとして誘致・企画・準備・開催・運営…とあるうち、通訳手配が予定されていそうな時期は、準備と開催のあいだのどこかでしょうか。
国際会議のざっくりとした行程管理のタイムラインを以前いくつか見たことがあるのですが、なんとそこには通訳手配が含まれていませんでした(!)
通訳手配は何か月も前に予約されることもありますが、どちらかというと開催日直前であることが多いようです。どのくらいの時期かというと、慣れていないクライアントであれば、2週間前ならまだしも、1週間前に初めて打診されるような案件もあります。
会議当日の2~3か月前であれば会議のコーディネーションに慣れたクライアント。
1週間前に問い合わせが来るような仕事は、今ごろ必死で通訳者を探しているということは、何か通訳の依頼以外にも問題がありそうだ…ど敬遠されることもあるでしょう。
通訳者側の動きという面でも、ここまで近々では正直なところ困ってしまいます。
通訳者の動き:季節性について
通訳者の動きがどうなっているか、この場を借りて少しご説明します。
通訳業界では、仕事の入り方にかなり季節性があります。通訳者はその多くがフリーランスですから、このことは容易に想像がつくのではないでしょうか。
つまり繁忙期と閑散期があり、一般的には繁忙期は春・秋、閑散期は年末や真夏です。とくに気候も良く、国際会議が目白押しとなる春と秋は、人によっては息をつく暇もないほど、毎日毎日、会議から会議へと渡り歩くことになります。
通訳者の準備量は一概には言えませんが、だいたい1週間前から準備を始めます。では、1週間前に資料を出せばいいのかというと、繁忙期なら1週間前では間に合わないことがあります。
直前に他の案件が入っている場合はそれよりも前もって準備をしておかなければなりません。
具体的には、2週間以上前から、仕事や用事の合間を縫って時間を見つけ、準備を進めることになります。
特に繁忙期の案件は、何か月も前から依頼が決まっているものもあります。仮予約は可能であれば、半年前を目安に打診し、詳細は3週間から2週間前までに共有する。細かい調整は直前まで入る可能性があることは通訳者も理解しているので、確定するまで放っておくよりは、進捗があり次第コミュニケーションをとるようにすることが重要です。
いつまでに準備資料を準備すればいいのか?
最悪なのは資料がゼロ。まったく資料が来ないことです。
同業者の中には事前に資料が提供されない場合には、前日でも断ることを方針に掲げている人もいるくらいです。
だからといって、前夜に何十ページ、何百ページもの資料が届いても意味がありません。資料が何も出ていないとよくないと思われたのか、
「エイヤッ」
とばかりに、宿泊しているホテルの部屋に夜中に大量の資料が届いたこともありました。
ホテルに到着したのは夜半でしたから、その時間から資料を確認するとなると翌朝になってしまいます。しかも、会議に直接関係のある資料というよりも、世界各地に広がる各子会社・事業所の組織図(しかも片方の言語だけ)がほとんどでした。※
※参加者名簿や組織図などは、起点言語と対象言語の両方必要です。詳しくは「会議通訳の依頼方法:参加者名簿について」をご覧ください。
「ギリギリになってからでも送らないよりはマシだろう」
ということで送ったのではないかと思います。ですが、これでは資料ゼロ、資料が来なかったのと同じです。
アサイメント前夜、通訳者は充分に睡眠を確保し、体調を整え、翌朝の通訳に備えなければなりません。前夜、いえ当日の未明まで資料を読み込むようなことは、百害あって一利なし。可能な限り、避けなければなりません。
そんなことをすれば、当日のあたまの中、脳の状態が良好に保てないので、どれほど頑張ったとしても、どこかボンヤリしたまま、思ったように言葉が口をついて出てこない状態が続きます、脳が酸欠といった感じです。脳力的にも、また気持ちにも余裕がないため、いつもに比べて機転がきかない、とっさの対応ができない、といったことに陥ることもあります。
睡眠を犠牲にして資料に目を通すか、それとも睡眠のほうが大事か。このような「究極の選択」を迫られることになります。この場合、どちらを選択するか。
無理に資料に目を通すよりも、睡眠のほうが断然、大事です。少々眠くなってもなんとかなる会議参加者と違い、通訳者は耳で聴いている内容を再現することを前提としてイベント参加していますから、参加者のように(なんとなく)受け身で聴いていたのでは仕事になりません。
具体的には、2週間前(15日前)を目安に資料を揃えるようにして、すべて揃ってから一度に出すのではなく、出てきたものから順次共有するようにするといいと思います。ただ、一度にまとめて共有するのと比べて、このやり方は確かに手間がかかるので、もっと早い段階で効率的にやり取りする方法を熟考しておくことが明暗を左右します。
もっと早い段階というのは、登壇者(スピーカー)とのやり取りのいちばん最初の段階ではないかとおもいます。誰に登壇してもらうか、交渉をしている段階、または登壇が決まった瞬間に、原稿をもらうタイミングを詰めておくことです。
後になってから、登壇者に
「あのー、ちなみに原稿は◯月◯日までにお願いできますかー?」
とお願いしてみても、先方には
「ええ?そんなこと聞いてないよ」
と断られたり、返事すらなく無視・スルーされてしまい
当日ギリギリまで原稿が来ない、あるいは、結局来ないのが関の山。
でも考えてみて下さい。
ここでいちばん犠牲にされているのは何でしょうか。
リスクとして知らず知らずのうちに受け入れてしまっているのは、コミュニケーションの破綻、つまりイベントの本来の目的の損失、失敗ではないでしょうか。
せっかく何ヶ月もかけて、心血注いでオーガナイズしてきた会議なのに、最後の最後、いちばん大切な当日になって、大事な登壇者のスピーチを、通訳に十分な準備をさせなかったがために、無理をさせ、その結果大失敗。
これでは会場の参加者も満足できず、不完全燃焼…。これではあまりにもったいないですよね。
しかも簡単に防げるのです。
事前に、通訳者に充分に準備する資料と時間の両方を与えること。
そのために、大失敗と大成功の分かれ道、その分岐点はどこだと思いますか?
スピーカーとの最初の交渉の段階です。スピーカーとして登壇することを決めた時、すでに条件として、原稿とプレゼン資料の提出のタイミングと形式について話をキッチリとつけておくことです。
クライアントに強いことは言いにくい、頼みにくいのはわかります。大事なクライアント、相手が多忙な医師など、無理を言いにくい相手であればなおのこと、最初から明確にして、最初にきちんと交渉して約束を取り付けておくことです。
ここで、内部ではしっかりとプランBも用意しておきましょう。現実的なContingency Plan をしっかりと決めて、すぐに行動に移せるようにAction Planを設定しておくこと。これが大事です。
Contingency Planとしてオススメのプラン方針は、原稿の下書き、下書きもまだなら、筋書きだけでもないよりは何倍もマシなので、それを期限までにもらうように約束を取り付けて下さい。
- アウトラインと
- カギとなる用語と
- トピックがあるだけでも、
全く何もないのとは大違いです。これを遅くとも2週間前には通訳者に伝えるようにして下さい。
お持ち帰りポイント
・春・秋は通訳業界の繁忙期
・通訳手配は6か月前でも早すぎることはない
・資料は2週間前を〆切の目安として共有