こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。
優れた通訳者の条件とは?
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「優れた」通訳者とは?その条件とは何か?
私は「優れた」通訳者🏆 である以前に当たり前であるはずの「まともな」通訳者🏅 である条件について、今回はとりあげたいと思います。
「まとも」である、あるいは「優れている」かどうか。
スキルは大きく二つのカテゴリーに分けられます。
ひとつは通訳する技術そのもの。
正確に訳せるかどうかという通訳技術のことですが、通訳が「うまい」ことと「正確である」ことは似ていますが同じではありません。重なる部分がある、互いに排反する(mutually exclusive)わけではないものの、二つの円が完全には重なっていません。
「うまい」かどうかは主観的なものであり、「正確」かどうかは客観的なものです。
「正確さ」を測る三つの指針
「正確さ」を測る指針としてはまず、以下の三つが挙げられます。(これ以外にもありますが、ここではひとまず三つ)
- 足さない (without addition)
- 引かない (without omission)
- 変えない (without distortion)
「まとも」である、あるいは「優れている」かどうか、もうひとつのスキルとは 対人スキル(People Skills)。
クライアントをはじめ関係者全員との接し方、態度などのことです。この中には服装、つまりTPOをわきまえた服装も含まれます。
社会人としての協調性や判断力、一緒に仕事がしやすいかどうか、と言えるかもしれません。
ベストはどちらのスキルも高い人。通訳が正確で対人スキルが高い人ですね。最悪なのは、通訳が下手で対人スキルも低い人。これは問題外としても、難しいのは現実的に両方のスキルが「バッチリ!」「申し分なし」なんてことは珍しい。
実際は「帯に短し襷(たすき)に長し」中途半端で役に立たないとまではいかないかもしれませんが、そうそう、思うような都合の良い(失礼)バランスの良い人など見つからないのです。
では、仕方がない・・・とばかりに
A:通訳は正確👍だけれど扱いにくい人👿
B:通訳は上手くない👎けれど一緒に仕事しやすい人😇
なら、どちらがいいか?
Aさんは評判では通訳が正確らしいが、気難しい。さすがに通訳が「下手」な人では困るけれど、使えないほどではなく、一緒に仕事がしやすいBさん。
悩ましいですね!
こうなってくると、う〜む!通訳は抜群にうまいわけじゃなくてもいいから、そこそこ扱いやすい人はいないかな?という気になってきたりして・・・。
どの組み合わせがいいか、立場によって答えが違うかもしれません。
例えば、通訳者が自分のブースパートナーとして選ぶならAさん、少々気難しくてもブースクォリティを担保したいと考える人もいるでしょうし、いやブースのなかの雰囲気が悪くては自分のパフォーマンスにも影響するのでAさんよりBさんの方がマシと考える人もいるでしょう。
また、派遣元のエージェンシーからみたら基準が少し違うかもしれません。
ちゃんと通訳訓練を受けていない人のなかには、カジュアルな英語で内容をかなり端折って話すタイプの人が珍しくありません。
通訳者と倫理|中立性・公平性
長年の経験者のなかには個人の意見やアドバイスをするといった少しお節介な人もいるようです。これは通訳倫理に反する行為です。「中立性(Neutrality)」「公平性(Impartiality)」と言って、通訳者は個人的な意見は言ってはいけないことになっています。
通訳倫理はプロ💰の通訳者であれば全員心得ておくべき事柄ではありますが、体系的に通訳の勉強したのではない人、実地ばかりの叩き上げなどの場合には、通訳倫理に明るくない人もいるのです。
通訳倫理について話すとそれだけで何ページもいってしまうので、ここでは中立性というものがあるということだけに絞り、守秘義務など他のものに関してはまた改めて触れたいと思いますが、参考リンクを文末にいくつかご紹介しておきます。
通訳訓練を受けており通訳歴も長そうな人のなかには、丁寧な訳し方だけれど少し堅苦しい感じの人もいます。
気難しそうな感じもして、その厳しい雰囲気が相手にも伝わるため緊張した空気になり、クライアントのほうがかえって気を使ってしまう😥ことも考えられます。
通訳は簡潔で英語はカジュアル、淡々としているので、スピーカー本人が丁寧な人柄でコミュニケーションが取りやすい人柄を感じて欲しいと思っている場合、スピーカーの人柄、「らしさ」が伝わりません。
通訳者によって全く違うニュアンスで相手に伝わってしまったり、内容が端折られたり、個人的な感情を挟んできたり、こういうことで不信感を抱かせてしまう・・・。
クライアントは丁寧な言葉づかいで自分が言っていることを端折らずにそのまま訳して欲しいというのがシンプルな希望でしょう。
この「そのまま訳す」というのは曲者で、そのまま訳す=満足に訳してもらうようにするには事前に話すことだと思います。感覚的に合わなさそう🙄・・・な場合は分かると思います。
次に、ここは思い通り伝わらないと困るという部分については通訳者と事前にすり合わせをすることをお勧めします。私ならそのようなお客様は理想的なお客様です✨✨
通訳者というプロの言葉選びに首をつっこむのは失礼😰では?と思われる方がいらっしゃるようですが、あとで文句を言うくらいなら、事前に重要箇所と重要表現の擦り合わせをした方が100倍建設的です。
同じ通訳者でもいろいろな考え方の人がいますので、このやり方に異を唱える人もいるかもしれませんが「まともな通訳者」で「まともな社会人」あれば、感謝こそすれ迷惑がることはないと思います。
なかなか通訳者の方から表現のすり合わせをさせて欲しいと切り出されることはないと思います。
そもそも、すり合わせをするためには日本語と英語(あるいは起点言語と目標言語)の両方の表現が上がっていることが前提になりますから、通訳を必要とするくらいなので外国語の表現を依頼人が用意していることは想定していませんし「この通訳さん自信がないのかな?わからないのかな?」と誤解されるくらいなら下手な提案はやめておこうと無意識にそう感じると思います。
ですが「日本語のこの部分、こういった表現が出てくるけれどここは大切な部分なんです❣️」と事前に伝えてもらっていたら、誠実な(=まともな)通訳者なら、その部分は特に念入りに準備するはずです。
もし、事前の擦り合わせを申し出て機嫌を損ねるような通訳者がいたとしたら、それは注意信号です。その通訳者とは「相性が悪いことが早く分かってよかった」「危険が回避できてよかった」くらいに考えればいいと思います。
事前のすり合わせをどう切り出したらいいか分からず心配なら、申し込むときにこの記事を読んだとおっしゃっていただいて構いません。通訳依頼の失敗は減らせるはずです。ぜひ、この一手間をかけることを試してみてください。👍
【参考リンク】
- AUSIT 倫理規定と通訳者の行動 ー ビジネス分野におけるダイアログ通訳の場合(瀧本 眞人さん)
- 広島の会議通訳者で宮原美佳子さんのブログ記事「通訳者の職業倫理」でも取り上げられています。
『語源で覚える最頻出イディオム』は今でもお世話になっている私のマスト本🏋🏻♀️(繰り返し練習に使用)