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中国地名・人名、そして・・・”sentenced xx in prison” は禁錮か懲役か?

こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。

お仕事の報告。翻訳をしてボイスオーバーを入れる仕事を定期的にしています。それで、つい最近「あぁこれ。来た!こういうの難しいんだったよね、思い出したわ。」というよくある苦労話のひとつのパターンをご紹介しようと思います。

まず、今回の素材の背景を少しご紹介しておきましょう。

中国の河北省にある寄宿学校の教師が、複数の男子生徒を自宅監禁したというかどで、有罪判決を受けた。実際は、自宅監禁どころではなく、ここで書くのがはばかられるほど、様々な虐待・暴行(There, they were bound and gagged, tortured and raped, a court heard.)を生徒に強要していたとんでもない教師だった。

もしかしたらちょっと意外かもしれないけれども、中国の地名や人名を英語の発言からすぐに日本語に訳すのが、難しいことがある。これが、けっこう頻繁にある。唐突に会話に出てきたりすると、一瞬「?」と頭が真っ白になり、日本語の対訳表現と結びつかずとまどってしまう。

通訳訓練を日々欠かさず行っている人にとっては待ってました!と難なく切り返せるかもしれないし、中国の地理や事情に詳しい同業者ならとっさに応えられる、いわゆる瞬発力の差かもしれないが…。

ではまず地名から。

“in northern China’s Hebei province”=中国は河北省北部。”Hebei province” は河北省。 ちなみに、似ていて紛らわしいのが “Hubei province”。こちらは湖北省。さらに、”Erliban Village”は二里半村。表記がわかったのはいいが、今度は日本語でなんと読むのか・・・。「ニリバン村」?英語の発音にならって「アーリバン村」?中国語の発音に倣うか、日本語読みにするか。外国(語)の地名や人名は現地の発音をカタカナに置き換えることが多いが、漢字圏の場合は日本語読みができるため現地の発音のカタカナ変換ではなく、日本語読みがになることが多い。しかし、ここがいつもそうと決まっているわけではないし、媒体によってルールが違うこともある。

・・・大いに悩ましいところだ。

地名と同様、人名も現地読みのカタカナ変換にするか、漢字の日本語読みを当てるか、判断に苦しむところだが、これもクライアントの方針しだいだとは言っても、それほど一貫性があるわけではない。時と場合によるのだ。

今回の名前、英語から元の漢字を知る必要がある。

“Li Jian”=李建(被告)、”Mr Zhang”=張さん。ここまでは調べて出てきた。これを、「リケン被告」にするか、「リ・ジャン被告」とするか。(結局「リ被告」にしました。)そして「張さん」も、英語の発音にならって「チャンさん」か、それとも日本語読みで「チョウさん」にするべきか・・・。

例えば、中国の国家主席などは、漢字を日本語読みすることが従来のやり方で、蒋介石は「しょうかいせき」だし、習近平も「しゅうきんぺい」となる。それが、そうかと思うと、いつ頃からか、たしかに「シージンピン」や「シーチンピン」と耳にすることもある。これが「ゆれ」なのだけれど、それでもおそらく習近平は「シュウキンペイ(国家主席)」で通っているのではないだろうか。

余談ですが、「習近平」は英語ではXi Jinping。これをどこぞやのキャスターが「イレブン」と勘違いして読んでしまい、解雇されたとかされなかったとか・・・。(XI=11と間違えてしまったんでしょうね)

今回の素材で悩ましかったのは地名人名だけではなかった。法制度、用語の定義の違いも、中国の法制度にのっとった内容が英語で書かれており、それを日本語に訳すというものだ。

具体的には、先だって上記の容疑者(現在は受刑囚)が有罪判決を受けたが、そのときの求刑が、
“Li received a prison sentence of two years and 10 months.” とある。これを訳していて、「2年10ヶ月の…」懲役か?禁錮か?と迷った。日本法では懲役と禁錮は違い、その違いが重要なようだ。しかし、事件が起きたのは日本ではなく中国。残念ながら私は中国の司法制度に明るくない…。
 
困ったぞ。しかも、この記事まだ日本語になっていないようで、日本のメディア?に届いていないのか、検索しても出てこない・・・。

もう少し深く調べてみると、英文と中文の対訳文書が出てきた。並列の中国語(対訳)には「李被判两年又十个月的有期徒刑」とある。この「(有期)徒刑」が、懲役を指すのか、禁錮を指すのか、はたまた別のものを指すのか・・・。別のもである可能性も低くなさそうだ。なぜなら、ところ変われば「法」変わるからだ。

Weblio (cjjc) によると「有期徒刑OO年=(有期)懲役OO年」とのことなので懲役だろうか。そして、「懲役」と「禁錮」「拘留」の違いは? によると(以下、引用)

日本における「懲役」「禁錮」「拘留」は、いずれも刑法における自由刑(自由を奪う刑罰)です。「懲役」は刑務所内での労働が義務付けられていますが、「禁錮」「拘留」は拘置することのみが定められている点が最大の違いとなります。ただし、願い出により刑務作業ができるため、「禁錮」の場合でも多くの受刑者が刑務所内での労働に従事しており、「懲役」との区別はほとんどないというのが実情です。もちろん、刑の重さは「禁錮」より「懲役」のが重くなります。

とある。ちなみにこの中国語の「徒刑」ですが、日本(語)でも、「徒刑(ずけい)」とも「徒罪(ずざい)」とも呼ばれ、古く、大宝律令などの律令法に定められていた五刑のひとつで、「受刑者を一定期間獄に拘禁して、強制的に労役に服させる刑で今日の懲役と似た自由刑である。」とありました。

さあ、そんなこんなで、ここは「2年10ヶ月の懲役を言い渡され~」としよう!

…と思ったところで、以下のような指摘を発見。
ほぼ、振り出しに戻ってしまいました。
「判決と数字との関連が、禁固なのか懲役7日よりも大きな問題である。」
「こちらの人がこのニュースを聞いたら、懲役なのか禁固であるのかは大きな問題とはしないでしょうね。」(出典:http://oshiete.goo.ne.jp/qa/2492591.html

つまり、懲役と禁錮を分ける、労働の義務があるかどうかは判別できず、しかも、それが日本(の法律)では重要な違いでも、それ以外の地域ではそうではないらしい。むしろ、in prison(拘置所)と in jail(刑務所) では収監される場所が違い、それぞれの場所の意味・目的が違い、むしろ、この違いのほうが重要だとある。なるほど…。

今回の中国の事件の場合は、懲役と訳すと、強制的な労役が「ある」ことを指し、間違った意味になる可能性があるゆえに、懲役よりは「禁錮(禁固)」を選ぶのが妥当そうだということ。

いわゆる刑務所で身柄を拘束されている、ということがポイントだと判断し、二転三転した結果、「禁錮」としました。

 

後記)
誤解のないように申し上げておきたいのですが、この程度の調べものなんて、ほんとにすごいリサーチをする人たちからしたら、調べ物をしたうちに入らないんですよ。

ましてや、今回はネットだけで調べたので、「リサーチしました!」なんて恥ずかしくていえない。そんな程度のものなんですよね。

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