こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。
Topic 02: アメリカ英語か、イギリス英語か、それが問題だ
グローバルでも、多国籍でも、国際的にビジネスを展開する、
国際派ビジネスマンのためのシリーズ第2弾。
現役通訳者によるビジネスコミュニケーションのコツの伝授!
今回は、ビジネスシーンで使うなら、イギリス英語とアメリカ英語とどちらがいいのか、について私見を述べます。
Contents
「イギリス英語」はへんな呼び方?
アメリカ英語を英語で American English、イギリス英語を British English と言いますが、イギリス人の中には、British English という表現に居心地の悪さを感じる人もいます。
日本語でも「英語」「米語」と書き分ける向きもありますが、一般的にはどちらも「英語」でしょう。大西洋を隔てて、アメリカとイギリスとでは、いくら同じ英語でも、あまり通じ合わないことがありますが、日本ではこのことはあまり知られていないのではないでしょうか。
日本語は、英語やスペイン語と違って、地域別に表記されることがないのでピンとこないと思いますが。
(と言いつつ、Japanese と Japanese-Kansai から言語を選択しなければならないアプリのメニューに出会ったことがあります。)
なぜ違和感が生じるのか。
重言だからです。
例を使って説明すると、「頭痛が痛い」とか「馬から落馬する」みたいなことば、
「犯罪を犯す」に見られるような誤用で、これにかなり似た感じです。
いずれも、正しくは「頭が痛い」あるいは「頭痛がする」、
「馬から落ちる」か「落馬する」のどちらか、
「犯罪を行う」か「罪を犯す」のどちらか、のはずです。
British English もこれと同じ理屈です。Japan から来た言葉だからJapaneseと呼ぶのと同じで、England の言葉だから English なのです。だから、どうにも座りが悪いのも当たり前と言えます。
「アメリカ英語はれっきとした英語だ」とアメリカの人は言いますし、方言(dialects)の数も多い。
英語の本国イギリスよりもはるかに面積も広く、人口も多い。数や面積で勝負したらアメリカの方に軍配が上がりますね。
英語と同じように、スペイン語も世界言語で、多くの国々で話されています。スペイン本国よりも他の地域の方が圧倒的に数も面積も広いです。
スペイン語もアメリカ(この場合、南北アメリカ大陸両方)では、スペイン本国のスペイン語をIberian Spanish(イベリア半島のスペイン語)と区別している時があります。これも「スペインのスペイン語」と呼んでいるようなもので、初めて聞いたときはちょっと驚きました。日本の場合は「日本の日本語」とは言いませんから…。
アメリカ英語とイギリス英語とどちらがいいのか?
はっきり言ってしまうと、イギリスではアメリカ訛り、アメリカ英語は嫌われます。とは言え、イギリス人もアメリカ人を目の前にして、あからさまには言わないでしょう。面と向かって訊けば「いえいえ、大丈夫、問題ありませんよ」と応えると思います。
口ではそう言うかもしれませんが、それはそう言わなければ失礼だからで、本心ではアメリカ英語は邪道だと思っています。
昔、なわとびのことを私が jump rope と言ったらすかさず skipping rope!! と直されました。そのときの相手の反応から「意味は分かるのだけれどイギリスではそうは言わないのよっ!」という強い意思を感じました。
イギリスに住んで長くなってきました。
自分が話すときもイギリス英語の発音・表現を主に使いますから、勢いイギリス英語贔屓になる訳です。でも、そんな私も、もともとは、日本の義務教育の中で英語を学びましたから、アメリカ英語・アメリカ発音を使っていました。
このあたりで改めてお伝えしておこうと思いますが、日本で教えられている英語は、圧倒的にアメリカ英語です。
スペルはもちろんイディオムなども基本的にアメリカのそれです。しかし、日本の学校で習った color というつづりも、イギリス英語では colour と「u」が含まれています(フランス語の影響)。「u」がないと「ろくに言葉がつづれない教養のない人」のように見られてしまいます。
日本語で平仮名やカタカナばかり多用した文章を読むようなもので、残念ながら、アメリカ英語のつづりはイギリスでは幼稚な印象を持たれる傾向にあります。
ヨーロッパ諸国でイギリス英語を使う国が多いのは、地域性だと思います。
しかし、一箇所例外の国があります。それはドイツ。
ドイツの人はアメリカ英語を使う人が多いです。
なぜでしょうか?
ここまで書いたところで、鋭い方ならピンと来たのではないでしょうか。
日本とドイツの共通点を考えてみて下さい。
第二次世界大戦、もしくは、太平洋戦争で、両国は枢軸国、ともに敗戦国なのです。
両国ともに、敗戦後は戦勝国の占領下に置かれました。
日本とドイツで教えられているのがアメリカ英語なのは、その影響です。
「いやいや、イギリスも戦勝国でしょう?」という声が飛んできそうですね。
そうです、そのとおりなのですが、日本とドイツはアメリカの占領下に置かれた。
(ドイツは東西に分断され東はソ連の、西はアメリカの占領下)
そ・れ・で ドイツも日本も、教えられている英語はアメリカ英語なのです。
英語圏におけるアメリカ英語とイギリス英語の位置付け
さて、アメリカ英語とイギリス英語とどちらがいいのか、ですが、それに答えることにつながる話題として、両者以外の英語について少しおさらいしておきたいと思います。
メジャーな英語圏の国(英語圏のことをアングロフォンと言います)には、イギリス(連合王国)、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドがあります。細かいことを言い始めるときりがないのですが、アイルランド共和国(通称、南アイルランド)は第二公用語が英語ですが英語ネイティブの国ですし、シンガポールや香港などは英語を公用語としていますが、アイルランドの場合とはちょっと違います。
じゃあ、フィリピンはどうなのか、などこれだけで議論が長くなるので、この話はここで止めておいて(インド英語は今回は言及しません)あくまで一般的にメジャーな英語圏として認識されている、イギリス、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドに絞って進めます。
植民地支配のなごりか、文化帝国主義のあらわれか?
イギリス以外の国はすべて、かつてイギリスの植民地だった国です。現在では、アメリカ合衆国とアイルランド共和国以外は、イギリス連邦に入っています。オーストラリアとニュージーランドの国旗を見ると、どちらも英国の国旗が配されていますね。
余談ですが、英国旗のことを、「ユニオンジャック」と通称として呼ばれることがあります。非常に頻繁にこう呼ばれるのですが、
正確には「ユニオンフラッグ」です。
この場合「jack」とは船首につけた旗(船首旗)のことで、海軍の船舶に付けられている英国旗は「ユニオンジャック」で間違いありませんが、それ以外の、陸地で掲揚されている国旗は正しくは「ユニオンフラッグ」といいます。
ニュージーランドでは国旗を変えるかどうか、国民に問う投票が2015年から16年にかけてあったようですが、ユニオンフラッグを左上に配した現行の国旗のまま、変更しないことを採択しました。
(ちなみにカナダもユニオンフラッグを配した国旗でしたが、1965年に国旗をオリジナルのメープルの絵柄に変更しています)
話を戻します。
それで、結局はアメリカ英語とイギリス英語のどちらがいいのか。
アメリカ英語で、くだけた話し方をするのは、あらたまった場には向いていません。
真剣に話を聞いてほしいなら、単語も話のレベルにあった語彙を使い、いい加減なスラーのかかった(かかり過ぎて間延びした)発音で発話しない方が効果があります。
アメリカでイギリス英語を話すと通じないことがありますが、逆に、イギリスでアメリカ英語を話したら通じることのほうが多い少でしょう。アメリカから多くの映画やテレビ番組が流れてきているため、イギリス人も慣れているからです。
ただ、ここからが重要なのですが、
アメリカは、新大陸、新世界で、歴史が浅い国、歴史が「ない」と言われるほど「短い」国と考えられていて、だからこそ、文化も政治も成熟していないと考えられています。ですから、アメリカ英語は「なまけもの英語」であり格下の英語と考えらえています。
ハリウッド映画でも、アメリカ主導の制作にもかかわらず、威厳のある役や知性のある役、歴史を感じさせる役は大概イギリス系(ウェールズやスコットランド、アイルランドを含めブリテン諸島出身)の俳優がアメリカ英語のアクセントを習得して演じています。
しかし、その逆は少ない。
イギリスでは、日本人とやりとりする事がある人たちは、日本人が話す英語はアメリカ英語が多いと感じていると思います。
これ自体はいいことでも悪いことでもないと思います。
個人の好みだと思いますが、イギリスに来て日本人がアメリカ英語を話すと、東京に来た外国人が関西弁で話すのと同じような感じでしょうか。
おそらく
「なぜこの人はアメリカ英語なんだろう」
「アメリカで勉強したとか住んでいたのかな」
と思うことでしょう。
そう思われるのが嫌な方、意識されるのが嫌な方は、イギリスや英国連邦ではイギリス英語を意識的に使うようにすることをお勧めします。
アメリカ英語とイギリス英語が異なるのは、発音だけではありません。
なかには、表現もつづりも、異なるものがあります。
アメリカ英語が直接的なのに対して、イギリスでは直接的な物言いを嫌う傾向があります。
現代の文化帝国主義はソフトから
現代の文化帝国主義、外来文化の受容は政治的に外部圧力として侵略してくるものではなく、おもにインターネットなどを経由して内側からジワジワと侵入するソフトパワーを介している。一昔前なら、○○かぶれと差別的に揶揄されたり、親○○派と表現されました。
アメリカ人の友人と話していると「あなたの英語はすごくイギリス訛りだね」と言われます。
ところが昔、アイルランド(北アイルランド)に留学していた頃は、現地人から「少しアメリカ訛りが入っているわね」と言われたものです。20年も前のことです。
イギリスでアメリカ訛りが嫌われる話をしましたが、アイルランドではイギリス訛り(特にロンドンのある南東部のアクセント)も嫌われます。リヴァプールや、国が変わってウェールズやスコットランドの訛りならまだしも、イングランドの訛りで、しかもポッシュな(Posh=気取った、鼻にかけた)訛りや話し方は(はっきりと顔に出すかどうかの違いはありますが)まず、敬遠されます。
BBC放送で使われているような英語を Received Pronunciation(RP=容認発音)と呼んだりしますが、Received Pronunciation とは言っても気取った(言ってみれば嫌味な)話し方やことば遣いとは限りません。
ただ、パブリックスクール(寄宿制の上流階級などの子弟が通う授業料の高い学校のことで、国公立の学校のことではありません)で教育を受けた人たちが話すようなお高く留まっている感じの場合もありますが、私個人の印象では日本語の「標準語」に似た位置づけ(方言の是非の議論も含む)に似ていなくもない気がします。
ロンドン近辺、いわゆるイングランド南東部にはロンドン訛りともいえる河口域英語(Estuary English)があり、その中でも東の方、エセックスといえば、日本なら関東の「ちばらき」(千葉、茨木)とでもいった感じ。
ロンドンのイースントエンド(金融街のあるザ・シティ=シティ・オブ・ロンドンの東側)もエセックスに似た位置づけです。
ロンドンはテムズ川、ちばらきは利根川、と河川を挟んでいるところも似ている気がします。
この手の話になると興味の尽きない話題なので、際限なく広がり終われなくなってしまうので、今回はこの辺でまとめに入りたいと思います。これからも発音や訛りの話は登場しますので、どうぞ懲りずにお付き合いください(笑)。
というわけで、イギリス(スコットランドやウェールズを含む)、オーストラリア、ニュージーランド、そしてインドやシンガポール、マレーシアなど、イギリスを旧宗主国とする国、元植民地に行ったら、あるいはこれらの国の人たちと商取引をしたり、メールや電話のやり取りをするときは、つづりも発音も語彙も表現も、アメリカ英語よりは極力イギリス英語を使うようにするといいと思います。
国際派ビジネスパーソンのためのシリーズ第三弾は「現地スタッフのプレゼンが終わったら言いたいある一言」についてお話しします。
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