こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。
資料と共有のタイミング~通訳の事前準備のために必要な資料
基礎知識から幅広い背景知識を含めてみっちり準備が必要な分野と、そこまでたっぷり準備を必要としない分野があります。それが、通訳者ひとりひとり、その人その人によって「みっちり準備が必要な分野」と「それほど準備を必要としない分野」の組み合わせが異なるのでクセモノです。つまり「困難な分野は誰にでも困難」と紋切型ではない。個人差が・か・な・り・あるということです。
その人の元々の専門(学位を取った分野や資格)、独立する前に勤めていた業界、通訳した経験が豊富な分野、趣味を含め普段から関心のある分野が何かにより、かなり個人差があるのです。
繰り返しになりますが、通訳と一口に言っても得意不得意分野の組み合わせには個人差があることを認識しておくこと。それは、通訳者選びと発注時期の見極めにおいて、かなり重要なポイントだと言えます。その個人差とは、人によって組み合わせが反転していることもあるほど極端に違う可能性もあります。
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準備にはどんなものがあるのか?
前者の「みっちりと準備が必要な案件」の場合、イベントで直接使用される資料以外に、その分野の基礎知識から身に付けなければなりませんし、その業界の最新トレンドにも、ある程度は馴染んでおかなければなりません。
例えば、もともと経験のある分野で、比較的に得意な分野だったとしましょう。それでも、ある特定のイベントで取り上げられている、特定のトピックについては知識を得なければなりませんし、使われるであろう用語・表現などもまとめておかなければなりません。
つまり、どんな分野であっても、準備が全く必要ないということはありません。インハウス通訳で、しかも毎日限られた部署で、同じことについて通訳をしているのでない限り、準備の量と質に違いこそあれ、フリーランスの会議通訳者にとって準備が必要であることに変わりはありません。
通訳の事前準備に必要なもの
- イベントのアジェンダ(進行表)できれば両言語で
- 名簿(名前と肩書き所属先が書かれたもの)両言語で
- プレゼン資料 パワーポイントファイルならノート付きで
- 当日の配布資料 タブレットで見せるだけの場合でもその素材
- スピーチ原稿 登壇者のスピーチがある場合
- 質問票 取材案件など用語を揃える為できれば両言語で
- 過去の用語集 対訳
当日、通訳者が
「あ、この話わかる!この人の言いたいポイントはこれだ!︎」
となるように、
事前に準備資料を出したり、打ち合わせをしたりして「対岸」から「こちら岸」まで連れてくることが大切なのがお分かりいただけたのではないでしょうか。
1.難度が高く、
2.繁忙期と重なり、しかも
3.資料の共有が遅く、前日や当日で、
4.資料の量も多かったとしたら・・・ いかにもありそうな話だと思いませんか?
つまり 4重苦!!!
間違いなく当日は大きく苦戦を強いられることになります。
失敗するリスクは高くなります!
いつ準備資料を送ればいいのか?
最悪なのは資料がゼロ。まったく資料が来ないことです。
同業者の中には事前に資料が提供されない場合には前日でも断ることを方針に掲げている人もいるくらいです。
だからといって、前夜に何十ページ、何百ページもの資料が届いたとしても、意味がありません。
資料がないとまずいだろう・・・ということで
「エイヤッ!!」
とばかりに、宿泊しているホテルの部屋に大量の資料が届いたこともありました。ホテルに到着したのは夜半でしたから、その時間から資料を確認するとなると翌朝になってしまいます!
しかも、会議に直接関係のある資料というよりも、世界各地に広がる各子会社・事業所の組織図(しかも片方の言語だけ)がほとんどでした。
「ギリギリになってからでも送らないよりはマシだろう」
ということで送ったのではないかと思います。ですが、これでは資料ゼロ、資料が来なかったのと同じです。
睡眠優先!アサイメント前夜、通訳者は充分に睡眠を確保し、体調を整え、翌朝の通訳に備えなければなりません。前夜、いえ当日の未明まで資料を読み込むようなことはしては百害あって一利なし。可能な限り、避けなければなりません。
そんなことをすれば、当日のあたまの中、脳の状態が良好に保てないので、どれほど頑張ったとしても、どこかボンヤリしたまま、思ったように言葉が口をついて出てこない状態が続きます、脳が酸欠といった感じです。
脳力的にも、また気持ちにも余裕がないため、いつもに比べて機転がきかない、とっさの対応ができない、といったことに陥ることもあります。
睡眠を犠牲にして資料に目を通すか、それとも睡眠のほうが大事か。このような「究極の選択」を迫られることになります。この場合、どちらを選択するか。
無理に資料に目を通すよりも、睡眠のほうが断然、大事です。最悪少々眠くなってもなんとかなる会議参加者と違い、通訳者は耳で聴いている内容を再現することを前提として精聴し続けるかたちで居ますから、参加者のように受け身で聴いていたのでは仕事になりません。
具体的には、2週間前(15日前)を目安に資料を揃えるようにして、すべて揃ってから一度に出すのではなく、出てきたものから順次共有するようにするといいと思います。
ただ、一度にまとめて共有するのと比べて、このやり方は確かに手間がかかるので、もっと早い段階で効率的にやり取りする方法を熟考しておくことが明暗を左右します。
お持ち帰りポイント
- 資料は2週間前を目安に共有する。
- すべて揃ってからではなく、揃ったものから順に共有。
- 資料の完成を待つよりも下書きでもいいので共有しタイミングを優先。