こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。
通訳という不思議な職業…?入門編
これを受けて通訳の視点から書いてみました。(はなさんにはご了承をいただいています)
このブログオーナーのランサムはなさんとは面識があり、尊敬する翻訳者さんです。
(はなさん、これから通訳の勉強をされるんですね!がんばってください。応援しています!)
それでは、さっそく書いていきたいと思います。
まず、はなさんが異業種の方々と交流していてほとんどの方に言われるという「翻訳の人って、今まで会ったことがない」というもの。通訳はどうでしょうか。
翻訳と違い、あまり家でやる仕事ではないので、私個人の経験ではさすがに言われたことがないですが、翻訳と通訳とを同義に思っている人が多いのは確かです。
通訳の場合、仕事を通して人と会うことが多いので、上記のやり取り自体があり得ないということもあるかもしれません。
それでもオンラインなどでフォームに記入するときなど、職業や業種を選ぶドロップダウンメニューの中にいまだに含まれていないところを見ると、両方とも、やはり知られていない、誤解されている職業なのかもしれません。歴史の古い仕事なんですけどね。
通訳で圧倒的に多い勘違いは「英語(他言語)が話せればできるんでしょ?」と思われていることです。日本(人)にはまだまだ日本語しか話さない人が多いから通訳が必要だけど、みんながもっと英語が話せるようになれば、通訳なんて「この世からなくなる仕事だ」と思っている人の多いこと!
さすがにこれを面と向かって言われることはないですけれど、相手がそういうふうに考えている時、いくらなんでもわかりますよ。
通訳という仕事に対する誤解の中で、声高に言いたいと常日頃思っているのが、通訳するスキル=外国語が話せる「ではない」こと。
通訳するときに必要なスキルの中でつくづく忘れられているな、と思うのは「記憶保持」。
通訳とは、平たく言うと、話されたことを順番通りに、理解し、覚えておき、もう一つの言語で再現するという作業ですから「正確に」「覚えておく」というスキルが「ものすごく」大切なのです。
どうでしょうか、外国語を勉強するとき、書く・読む・聞く・話すの4スキルは練習するけれど人のスピーチをそっくりそのまま「記憶する」練習なんてしますか?しませんよね?
学生時代にE.S.S.に入っていたのですが、そのスピーチ委員会に入っていた人たちはキング牧師の「I have a dream」のスピーチを毎日毎日練習して、マントラのように唱えて丸暗記するまでやっていました。そのような場合はともかく、普通に語学を勉強するときに、人の話を要素を漏らさず「再現するつもり」で聞いている人はいないと思います。
記憶保持(リテンションと言います)のスキルだけについていえば、外国語スキルとは関係がなく、単一言語でも練習ができる。通訳するにはなくてはならないスキルだけれど、外国語能力とは別の能力です。
翻訳と通訳で似ているところは、まず高度な語学力が必要なところ。「確かに英語は勉強しているから、知識はある…だけど、しゃべれるかどうかは全く別の話」 ― そう、聞いてわかるのと同じレベルで話せるかと言ったら、そうじゃないのは、中学高校大学と10年も勉強してきたのに英語が話せない人が圧倒的に多いことからも明らかですね。
それでも、聞く分にはある程度はわかるという人も多いはず。ところが、それと同じくらい話せるかというと、そうではない。受け身の力だからです。
「英語がしゃべれない翻訳者は実はたくさんいる」というのも本当に翻訳者同士では珍しくもなんともない話で、通訳者だってこのことは知っています。
それから「辞書なんていらないでしょ?」と思われるのは通訳者も同じで、いきなり「○○って何(ていうの)?」と出し抜けに辞書代わりとばかりに質問されることも少なくありません。
コンテクスト(周辺情報)なしでは特定できないのは翻訳も通訳も同じですよね。
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(つづく)