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海外のエージェントについて その2

こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。

今回は、前回に引き続き、海外のエージェントに関して紹介します。

Contents

6.支払いについて

支払期日ですが、イギリスでは何も言わなければ請求日から、あるいは業務完了時から、30日以内に支払わなければならないことになっています。これ以外の条件を希望する場合は、双方、前もってやり取りをし、事前に自分の条件を明確にしておく必要があります。
GOV.UK-invoicing and taking payment from customers

支払い遅延や不払いについては、期日とおりに払ってくれるところ、数日遅れることはあっても最後はちゃんと払ってくれるところ、期日は過ぎるけれど催促をしたらすぐに払ってくれるところもあります。催促を何度かしないと支払われず、毎回のように遅れがち、それでも結局は耳を揃えて払ってくれるところも。しかし、日本のエージェントと比べると、海外のエージェントは遅れがちのところが多いかも知れません。
私個人の経験では、請求書を送ってから支払いがあるまで、2~3カ月がたってしまわないよう、定期的にリマインダーや電話を掛けるようにしています。少額裁判所に持ち込み寸前までいったことは1、2度ありますが、幸い一度も完全に踏み倒された、とか、取りはぐれたことはありません。ちなみに請求書には、支払い遅延の発生に対して、延滞料を明記しています。

ただ、期日を過ぎたからと言って、即座にけたたましく催促攻勢をかけると関係が不必要にこじれかねません。少し気持ちに余裕をもって、1日や2日遅れたくらいで取り乱したりせず、同時に逃げ道を与えない気構えと段取りが必要です。効き目のある督促状など用意しておく、いざとなったら相談するのはどこになるのか……予め書き留めておくといいと思います。保険みたいなもので、そこまで用意しておけば、実際には使わずに済むものかもしれません。〝 Expect the best, prepare for the worst” の教訓どおりです。

また、あまり時間をおかずに回収するようにしている理由は、不払いの状態とは家賃の滞納と同じで、時間が経てば経つほど、回収不能のリスクが高くなるからです。担当者がただうっかりしていただけかもしれませんし、悪質にも、こちらが忘れていれば払わないつもりだったかもしれません。いずれにせよ、遅れれば遅れるほど、延滞料がかさんで相手にとっても支払いが困難になってきますし、そうでなくとも、実は経営状態が悪かったことを知らないでおかしいなと思っていたら行方が分からなくなった、なんてことにならないとも限りません。

会社の場所も重要
エージェントの会社がどこで登録されているのか、というのも大切な情報です。オフィスの住所はイングランドでも登記情報を調べたら、スコットランドだったということもあります。イングランド、ウェールズであれば、少額裁判所の手続きはオンラインで出来ます。しかし、スコットランドだった場合、オンラインでの申請は無理で、管轄の裁判所(sheriff court)に出向かなければなりません。こうなるといよいよ大変なので、私はそうなってしまうまでに、初めて取引するエージェントで、会社登記の住所がスコットランドなどの場合、いつもよりも念入りに信用調査をして取引するか見送るか決める、あるいは、直受けの場合、前払いでいくらか払ってもらうよう交渉するようにしています。

期日を過ぎたけれども入金の確認が取れない場合、どうするか。期日の翌日に問い合わせの電話を入れる、数日待ってからやんわりと注意を促す…。人によって考え方、やり方は異なるでしょう。私の場合は、今は1、2日待ってから「どうなってますか~?」程度に、少しやわらかめのリマインダーメールを送り、その時の対応次第で次を決めています。ただ、私はきっちりと全額支払いが完了するまで決して諦めないので、コンスタントに計画的にリマインダーをかけます。

報酬決済の方法についてですが、銀行振り込みがほとんどですが、小切手もあります。また、国をまたぐ場合は銀行手数料や日数もかかることからPayPalで対応してくれるところもあります。クレジットカードで支払いというのは、日本のお客様以外では私個人はあまり経験がありません。

また、振込手数料は何も言わないと通訳者持ちになることもあるので、負担したくなければ事前に交渉しておく必要があります。ただ、相手側が額面どおりに振り込んでくれた場合でも、受け取り側で為替手数料等が発生。金額が目減りすることはあります。これは、皆さんもよくご存知のとおりです。

7.標準的な取引条件と契約書・同意書の注意点

標準的な取引条件について書こうと思いましたが、それだけで大幅に長くなりそうなので、取引条件や契約書に署名する際の注意点については、改めて7回以降のテーマに絡めて書きます。ただ、ここでは海外のエージェント相手であるが故に、契約の進め方で、私が日本のエージェントと違う点で気を付けていること。それは、まずプロジェクトマネージャー(エージェントの案件担当者、以降プロマネ)が、どういうバックグラウンドなのかを知ることです。
まさか、プロマネに「あなたのバックグラウンドは何か」と訊くわけには行きません。でも、その会社の求人情報(応募要項)をチェックすることで、通訳や翻訳の経験者を採用しているのか、それともプロジェクトマネージメントのバックグラウンドを持つ人を採用しているのか、判断できます。

また、海外のエージェントでは、ほとんど社会経験がない学生上がりの若い人が、プロのフリーランス通訳者になるまでのステップとして、まず通訳(翻訳)エージェントのプロマネになるというパターンも多くあります。私自身も感じていたのですが、他言語の仲間も、ここ数年は特にその傾向が強くなっていると話しており、プロジェクトをマネージするというよりは、伝書鳩。右から左へ、左から右へ、これではバケツリレーをやっているのと変わりません。エンドクライアントの意向を吟味したり(顧客教育も含まれる)ソリューションを提案したり、案件のスペックと通訳者とを調整する能力が問われる仕事です。それなのに、まるで他人事のように、自分の役割が分っていないのではないかと思わせる人。いわゆるコーディネーションのできないコーディネーター(プロマネ)であることも、残念ながら珍しくなくなってきました。

エージェントやコーディネーターとの付き合い方
通訳の話からは少々逸れますが、海外のエージェントのバケツリレー型のプロマネが翻訳の仕事の振り方の特長として、金曜日の16時過ぎに連絡してきて、締め切りが月曜の朝9時というような案件を振ってきます。「土日があるじゃない?」「フリーランスだから土日も祝日も関係ないでしょ」と端から思っているのです。こういう案件は、わかっていること以外にも問題が潜んでいるもので、ボロボロと後になって出てきますから、プロマネの仕事に対する意識を早めに見極めて、請けるか請けないか、判断することが肝要だと思います。

海外のエージェントの担当者は悪気はなかったのかもしれませんが、受注の時点で詰めが甘いので(聞き取り、推し量る能力の欠如)結果的に末端、つまり通訳者に無理を押し付けることになってしまう。資料が出ないことも珍しくありません。資料かと思ったら、延々と何十枚も本社・支社含めた全社の組織図だけが送られてきたなんてことも。こんなエージェントは近寄るな、と言いたいところですが、本当にエンドクライアントの事情が原因のこともあり、当日が近づいてこないと、どうにもわからないこともあります。だからこそ、こちらのコートに打ち込まれたボールを相手側のコートに打ち返すこと。「資料が来なかったら断ります。資料とは(かくかくしかじか)、(いついつ)までに入手できなければ、直前でも断ります」と、最初から、明確に「おことわり」を入れておく、こともできますから。最初からはっきりと伝えておくことが重要だと思います。

8.サポートについて

海外のエージェントは「日本のエージェントに比べてサポートが雑なイメージがある」とのことですが、日本にも振りっぱなしのエージェントはいますので、ケースバイケースでしょうか。海外のエージェントと一口に言っても、会社によってかなり差があります。日本よりもしっかり対応してくれる海外エージェントも少なからずあります。日本のやり方とは違うけれども、合理的なやり方できっちりやるエージェントはいくつもあります。

どのくらいエンドクライアントから情報を取ってくれるのか。なかなか思ったような資料がタイムリーに揃うことはないので苦労するところですが、本当にプッシュしてる?と思わせるようなときもあります。どれだけプッシュしても本当に出てこないときと、口ではそう言いながらお客さんに嫌われたくなくて実はプッシュしていないときと、両方あるのではないでしょうか。

とにかく大切なのは、肝心な情報・詳細が、ちゃんと手に入ること。もちろん時間に余裕をもってもらえるのがベストですが、実際はなかなか入ってこないことが多いですよね。入ってきたら入ってきたで、修正や追加が当日まで何度も入ったり……。これは私の考えですが、エージェントから締め切りを言い渡せるということは、私たちのほうから資料譲渡の期限を言い渡してもいいと思います。

イギリスのエージェントは、良くも悪くも日本のエージェントのような細やかさは期待できないものの、通訳者の基本的権利については日本よりも心得がある気がします。つまり日本なら、ややもすると、通訳者が終始飲まず食わずでも何とも思わず、トイレの必要性すら考慮していない、通訳者に対しリスペクトのかけらも感じられない対応をする顧客(通訳エージェント以外)もいると思います。こういう時にはエージェントが入っていって顧客教育をするべきだと思います。

ですが日本では、まだまだ自分たちが払っている側=お客様=神様、という図式が当たり前。自分にとってのお客に必死で、すり寄っていく、必死すぎるがゆえに、資料を請求する度胸もない。このように搾取の構造が染みついている人の場合、この他にも考えが及んでいない、調整できていないことが発覚する可能性は高いと感じます。

エージェント(現場で連携しているエンドクライアント以外の担当者)から「行くならこのタイミングで行ってね」と言われることはあっても、トイレに行くのは生理現象ですから、行くなとは言えないはず。急に体調を崩してどうしても離席しなければならなかったとしたら、トイレまで追いかけてきて急き立てられるということは、さすがにないでしょう。日本では、まだ ‘mutual respect’ というレベルまで社会的意識が到達していない。労働者に対する意識が成熟していないのでしょう。

多言語(欧州在住)の通訳者であれば、理不尽な態度を取られたら黙っていない。はっきりと言い返すでしょうし、自分がないがしろにされていると思ったら迷わず立ち去るかもしれません。徹底してナンセンスには付き合わないと思います。
海外のエージェントから、無理なことを要求されることが無いわけではありません。ただ、本人に無理を言っている自覚はありますし、ダメ元で訊いている感があるので、無理だと思ったら受け入れなければいいのです。うまく断る技術が役立ちます。
エージェントで、いくら雇い主サイドだと言っても、基本的な権利は守らなければいけませんし、通訳者にも生活があることはわかっているので、労働条件、安全に関して日本と比べると常識が通じやすい、日本よりも主張しやすいと思います。逆に平気で通訳者をないがしろにするようですと「悪事千里を走る」と言うように通訳者同士で評判になるでしょう。じきにビジネスが立ち行かなくなると思います。

9.どのくらい直接エンドクライアントに接触しなければならないか

これは日本のエージェントでも海外のエージェントの仕事でも同じだと思いますが。エンドクライアントにどれだけ(時間・量)サービスしなければならないか、期待されているか、というのは難しい問題です。エンドクライアントから「電話でタクシーを手配するのを手伝ってほしい」と言われたのに「それは通訳の仕事ではありません」と断ってしまうとしたら、柔軟性がなさすぎ、サービス精神がなさすぎかと思います。通訳の仕事かどうかよりも、人としてどうかと思ってしまいます。朝食や夕食に同席してほしいと言われることもあります。これは、その日の終わりが遅く、次の日の朝が早いなら誠実に断ればいいと思いますし、ケースバイケースで対応したらいいのではないでしょうか。

ただ、食事の際に通訳が発生するのかどうか。発生するなら料金が発生することを事前に話をつけておくこと。そうでないなら、同席しますが通訳はしません、と伝えることも必要だと思います。かといって、私は出血大サービスする必要はないと思います。通訳者が直接エンドクライアントに過度に接触することは、エージェントが日本でも海外でも嫌がるのは同じ。なので、現場での通訳業務最中以外は、必要以上に接触しないのが、私はいいと思います。

10.ランク付けについて

ランク付けは、日本ではSクラス、Aクラス、Bクラス……のようにされているのが一般的でしょうか。欧州のベテラン同業者、先輩格の人たちに訊いてみたところ、日本にはそんなものがあるの??と逆に興味津々に訊き返されました。エージェントも、何か統一されたランク分けのようなものがあるわけではなく、それぞれの会社の中で、一人ひとりの通訳者に評価(仕事を振る優先順位)しているが、あくまで自分たちの業務のサポート、内部情報だとのことでした。

通訳していても出くわすことがよくあるのですが、日本では客観的で絶対的な尺度を求める傾向が強く、欧州では絶対的ではなく、いささか主観的であらざるを得ないものの、横断的な尺度はそれほど重視していない、重視していないというより、その必要性を感じていないのではないかと思います。確かに、プロマネが「この人には任せられる」「頼みやすい」「扱いやすい」と閻魔帳を持っていればいいのであって、それがどれだけ客観的かと言われても、自分の経験からどう思ったか、感じたかのほうがおそらく重要なので、絶対的な尺度は必要ないのかもしれません。

11.テレカンやリモート通訳

「テレカンやリモート通訳が発達・普及していそうな気がするけれど、実際はどうですか」―これは、海外のエージェントでも、それなりに需要があると思います。ただ、分単位のレートになるので(ビデオ会議の場合は時間当たりなど)半日と全日の二項でレートを立てているのとはかなり条件に違いがあり、まず手続きが煩雑になります。些末なこと(請求手続き)に延々と時間がかかる。それでも、現場に出向くことが困難な場合(育児中など)もあるでしょう。在宅で通訳の仕事が続けられる、そのチャンネルがあることはいいことだと思います。

ただ、私が以前から納得がいかないのは、イギリスの警察署の取り調べなどでは、電話通訳サービスを使っているのですが、日本語であろうとスペイン語であろうと、アメリカにいる通訳者が電話口に出たりします。イギリスの法律や法律用語・用法は思った以上にアメリカのそれとは異なります。ですから、アメリカの法律(これも州によってなど、違うでしょうが)の下で普段通訳している人がそのままイギリス(この場合England & Wales)の案件の通訳をするのは危険です。それなのに、この傾向は変わりそうもありません。通訳という仕事に対する誤解がここでも生じたままなのです。これについては一朝一夕にとはいかずとも、意識して、状況を改善するべく、できることから取り組んで行こうと思っています。

(この記事は通翻WEBに「第6回 海外のエージェントについて その2」として掲載されたものです。)

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