こんにちは。イギリス在住会議通訳者の平松里英(rielondon)です。
海外のエージェント取引するとどんなメリットがあるか?
2018年の春から、レギュラーゲストとしてポッドキャスト番組『ロンドン発英語よもやま話』に出演いただいているランサムはなさんとの競作シリーズ第3弾です。いつものように同じテーマで「書きっこ」したいと思います。
今週は「通訳者になりたいけれどどう始めたらいいかわからないあなたへ【其の参】」をお届けすることになっていたのですが、順番をちょっと変更して「海外のエージェント取引するとどんなメリットがあるか?」というテーマでお届けします!
以前、通訳翻訳ウェブで連載させていただいた『通訳者通信fromロンドン』というコラムシリーズで「海外のエージェントについて その1」と「海外のエージェントについて その2」という記事で海外のエージェントについて色々と書かせていただきました。
日本に住んで通訳のお仕事を請ける場合、これまでは日本のエージェント、つまり国内のエージェントとのお付き合いで済んでいたと思うのですが、遠隔通訳のプラットフォームが次々と登場してきて事情は変わってきているのを感じます。上記の二つの記事が書かれたのが2017年ですので、2年弱経過していることからアップデートの記事を書いてみたいと思います。
Contents
2017年7月以降の通訳案件のバランスの変化
個人的には、昨年くらいから、遠隔の同時通訳用プラットフォームを使った引き合いが増えてきています。遠隔同通(Remote Simultaneous Interpreting)サービスが一つのサービス形態として拡がりを見せています。
ここで誤解がないように、遠隔同通プラットフォームが、通訳ブースを使った同時通訳サービスに取って代わるわけではないことをお伝えしてから話を進めたいと思います。
遠隔同時通訳サービスのお話をしたのは、他でもなく、テクノロジーの進化によって日本国内の通訳者さんが海外の通訳エージェントとのやり取りすることが増えてきた、増えるであろうと思うからです。
もちろん日本国内の人ばかりではありません。海外の通訳者が、日本の案件を遠隔で請け負ったり、居住国以外の海外のエージェントの案件(例えば、イギリス🇬🇧に住みながらアメリカ🇺🇸の会社の案件を請ける)といったことが確実に増えています。
通訳・翻訳案件の採用担当者との出会い方の変化
上でご紹介した「その1」の記事では、最初にどのように縁をつけるかについて
「ツテもコネもありませんでした。なので最初はネットでエージェントを検索してコンタクトを取りました。」
と書いているとおりで、自分の存在を誰も知らないのであちらから来てくれる筈はないですから(笑)ひとつひとつ、エージェントに登録していきました。
それが今では、その接点すら変わってしまった、変わりつつあると思っています。
業界のディレクトリでなくとも、海外の採用担当者が、例えばLinkedInを通じて私のことを見つけコンタクトを取って来ます。通訳関連の業界にいないのに、2nd とか3rd の繋がりを辿って連絡が来て、受注に繋がることも珍しくなくなってきました。
第1弾でも触れましたが、会社に所属したり、こちらからハードに売り込まなくてもやり方次第では相手の目に留まる存在の意思表示が出来れば、声を掛けてもらえるような世の中になりました。
そう言った意味では、工夫とアイデア次第でダイレクトにカスタマー、潜在顧客にエンゲージできる時代になった。その素地は整ったと言えるのではないでしょうか。
電話通訳やビデオ会議通訳と遠隔同通の決定的な違い
従来の電話通訳は、常に発言者と通訳者が交互に発言する通訳手法、いわゆる逐次通訳方法を使って行うほかには方法がありませんでした。ビデオ会議の通訳も同じで、電話通屋の代わりにコンピュータ画面の共有機能や映像が付くとビデオ会議の通訳ですが、この場合も上記同様に逐次通訳でした。
電話通訳もビデオ会議通訳も、音声データは1回線のみでやりとりしていますから、双方向にやり取りが必要な時にはダイヤルインといって、固定電話や携帯電話からバイパスを確保するといった別回線が必要でした(というか、今もそうです。)
では、近年広まりを見せている遠隔同時通訳とは何か、どう違うのか?
遠隔同時通訳は、電話通訳やビデオ会議通訳と似たような響きであるため誤解されている向きが否定できないのですが、電話通訳ともビデオ会議用ツールとも構造が異なるプラットフォームです。大きな違いはインプットとアウトプット、音声回線が同時に二つ同じプラットフォーム上に存在することです。
回線が二つというとすぐにはピンとこないかもしれませんが、インプットの音声(登壇者、発言者)とアウトプットの音声(通訳者の訳出)が同じ空間でやり取りされます。遠隔同通用プラットフォームでは入力と出力の両方が同時にハンドリングでき、さらに複数の言語の組み合わせに、それぞれ通訳者が2人のペア(あるいは3人のチーム)という複数体制になります。
インプットも単一言語に限らず、アウトプットも単一言語に限る必要はなく切り替えられるので、従来の電話を使った通訳やビデオ会議ツール(GoToMeeting、Skype、Zoomなど)を使って通訳するのとは根本的にエクスペリエンスが異なります。
遠隔同通サービスの出現に伴う料金についての変化
「海外のエージェントについて その2」のなかで、「テレカンやリモート通訳の条件面で対面の通訳とかなり条件に違いがあり、手続きが煩雑」であることに触れました。
ここで、料金についてアップデートしようと思いますが、上記のように大きく違うにも関わらず、間違ったイメージに基づいて料金設定されている、準備にかける時間や労力が全く考慮されていない、という問題点。それについては、どういうわけで、電話通訳は時給ベースや分ベースの報酬という認識が登場したのかはっきりとは分かりませんが、大きな問題です。
それだけではなく、分あたりや時間あたりのレート提示を要求されることが多くあります。(リクエストされたからといって、言われるままに時間あたりレートや分あたりレートを出さなければいけないなんてことはありませんから、これを読んでくださった皆さんはその手に乗らないようにしないで下さいね!)
「移動の負担が減った分料金が減らせる」と思われているのかどうかわかりませんが、対面の通訳よりも「やたらと」料金が安く提示されることがあります。ですが、これなら遠隔同時通訳案件を受ける意味などあったものじゃありません。
遠隔同通の場合、地理的な条件が関係ない分、夜中や明け方など次の日の調子に響いてしまう時間帯にリクエストが来ることはむしろ当たり前で、自律神経などへの影響を考えると程々にしておかないと調子をくずしてしまいます。
その意味では、ウェルネス、ウェルビーイングが叫ばれている昨今のトレンドに逆らっているとも言えるでしょうか…。
環境面で言えば、遠隔同通環境よりも現場の通訳ブースから通訳する方がやり易いのです。イベントのオーガナイザーとの連携、パートナーの通訳同士の連携、テクニシャンとの連携、そしてカスタマー(サービスユーザー)との連携と、どれを取っても現場のブースからのほうがやり易い。たとえ1日半もの移動時間がかかったとしても、現場にいて通訳することに軍配が上がると思います。
また、電話通訳やビデオ会議通訳で扱う案件と、遠隔同通で扱う案件の違いもあります。後者は前者よりも準備に時間や労力をかける必要がある案件の割合が多いと思います。
遠隔同通で得するのは誰でしょうか?
なので、移動の負担が減って得をするのは誰かと考えていくと、はっきり言って移動経費を浮かすことができるユーザーに貢献するものだと思います。それの何が問題なの?と聞かれてしまいそうですが、WIN x WIN になっていれば持続的な発展が期待できるけれど、当事者のうちのどこかに大きな凹みを作るようなモデルでは、やがて破綻をきたすものです。
さて、私が遠隔同通案件を請ける理由の一つが、飛行機に乗る回数を減らす、少しでも環境への負担を軽減したいからです。もう一つは、自宅に遠隔サービス仕様の仕事スペースを設けたからです。
遠隔同通にせよ、電話通訳やビデオ会議通訳にせよ、通訳者にも体力温存できるというメリットがあります。あるにはあるのですが、そのために失うものも多いので喜んでばかりいられないのは上で述べた通りです。
アコースティックショックという聴覚を失うかも知れないリスクも無視できません。なぜなら、通訳者が聴覚を失うことは☠️廃業☠️を意味するからです。
ブースパートナーが隣にいれば「メモ出し」などのお互いにサポートができます。遠隔で物理的にスペースが異空間にいると、それができません。同様に、オーガナイザーとの連携が皆無になってしまい、通訳者の存在が忘れられてしまいがちなことや、サービスユーザーにコミュニケーション取る手段がないことなど。このように、新たな障害を考えると、通訳者にとってはデメリットの方が数が多く、その影響も大きいかな、という感じです。
海外エージェントとの付き合い方に関する結論
やはり、重要になるのは自己責任において交渉をすること。交渉に対する正しい心構えと身構えが必要です。私も昔から用意周到にネゴシエーションができたわけではなく、今でも頭をウンウンと悩ませています。終わりはないと思います。交渉するにしても、強者・・・何事も上には上がいるものです。私よりも上手の交渉相手にも、もちろん、今でも遭遇することはあります!
仲間や先輩にも意見を聞きながら最終的には自分で決めるものの、また面倒がらずにちゃんとリサーチをしながら交渉に慣れていくほかに道はないと思います。日本人としてはつつがなく行きたいのは山々ですが、嫌でも対決すべき局面もあります。そんな時は避けて通れないことを覚悟し、きちんと対峙しなければなりません。(冷静に、ポイントを押さえて、決して怯まず、しかし相手への尊重を忘れないことが重要だと思います。)
前述の2017年の海外エージェントについての二つの記事では上でご紹介した以外にも、以下の点について詳しく取り上げています。海外エージェントとの取引に興味がある方や、興味というよりも否応なく対応を考えておかないといけないと思われる方は、是非ご覧になってください。
「海外エージェントについて その1」収録項目
- 最初にどのように縁を見つけるか
- 登録時の面接と採用方法
- 危ないエージェントの見分け方
- 相手の信用をどう調べるか、情報の入手方法
- 料金について
「海外のエージェントについて その2」収録項目
- 支払いについて
- 標準的な取引条件と契約書・同意書の注意点
- サポートについて
- どのくらい直接エンドクライアントに接触しなければならないか
- ランク付けについて
- テレカンやリモート通訳
最後に次のことをお伝えさせていただき今回は筆を置きたいと思います。
似たような関心や悩みを抱える人たちとの繋がり、相談できる相手がいたら、しかも複数いたら、孤軍奮闘しているよりも遥かに心強いですよね。
私も読者の皆さんと同じように、痛い目にあいながら一つ一つ勉強してきました。ですが、このブログを読んでくださっている皆さんには、このブログと通して知識や経験を共有したり、相談し合えれば嬉しいです。
まとまった進捗があったり、お知らせしたい展開がありましたら、折に触れてご連絡させていただきます♬
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